『HAMLET』−−”小さな村”と名付けられたそれは、軍需産業を根幹とした総合企業体『A−MAX
FACTORIES』が所有する施設である。月の資源開発をはじめ、食品、医療品、軍事兵器などの研究開発や、その製造が行われている。
数度の入植が行われた結果、ここでは水や食料、各種生活用品の85%が自給され、軍人、工員、研究員、資源採掘員や、それらの家族にいたるまで、千人近い人々が暮らす、巨大な月面都市となっている。
機密保持と安全確保のため、常に最新のセキュリティシステムを導入し、外界から完全に隔離された『HAMLET』は、生活空間から各種工場、農園や資源発掘機構までを備えた永住可能な施設として設計されている。稼働から百年あまりが経った現在、セキュリティ面の問題は全てクリアされ、わずか数人のスタッフでシステムの全てを監視できるようになっている・・・そのはずだったのだ。
「いや、今もそのシステムは動いている。
『HAMLET』のファイバーリンクシステムは、各階層のデータをひっきりなしに集め、常にデータを更新しているのだ。通信衛星『サトラップ』も、『HAMLET』からの情報を取りこぼすまいとして、センサーを全て『HAMLET』に向け、わずか1.5秒のタイムラグで情報を地球に向けて送っている。月の裏側にあるから、天体観測者にも分かるまいが、『HAMLET』という施設は今も動いているはずなのだ」
ではなぜ、『HAMLET』は俺達の通信に答えてくれないのか?・・・それが彼にはわからない。
彼に分かっているのは、自分がとてつもなく不幸な男だということだ。
作業機械の異常動作記録を見つけたのも自分だった。実験兵器の暴走事故を『A−MAX
FACTORIES』本部に報告したのも自分だった。科学スタッフの失踪も、怪生物目撃の第一報も、なぜか、自分が当直の時に送られてきたのだ。
「・・・ということは、まさか」
眠りに落ちる寸前、彼はスタッフの言葉で現実に引き戻される。
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