西暦2148年、10月17日───。
「そくったれめ!」
室長は、カラの灰皿をコンソールに投げ付ける。
スタッフは、一瞬ハッ! として緊張感を取り戻し、ディスプレイを覗き込むが、そこには何もあらわれてはいない。
室内の空気はすぐによどみ、スタッフの意識はまた薄らいでいく。室長は椅子に座り、今日20本目のタバコに火をつける。右足はすぐに貧乏揺すりを始め、彼は、今夜も帰れない自分を不憫に思う。窓越しに空を見上げると、ちょうど雲の切れ目から月が顔を覗かせた。
月は、今夜も無言で彼らの頭の上に浮かんでいる。いつもと違うのは、定期連絡が来ないことだけだ。そして昨日と違うことは、その状態がもっと厄介になっていることだけだ。
ここは『A−MAX SECURITIES』北米支局、月面追跡管制室。
コントロールセンターに詰め込まれて一週間、室長と5名のスタッフたちは、月の裏側にある研究施設『HAMLET』に、なんとかして連絡を取ろうと懸命になっているのだ。
「今、目で見ているあの月の、裏側を見ることができればいいのだが・・・」
そう思いながらも、室長のまぶたは閉じようとしてしまう。彼は目をこすり、必死に眠気をこらえる。朝になれば交替要員が来る。それまでは眠るわけにはいかない。
「『HAMLET』!・・・なんでもいいから、俺達の呼びかけに答えてくれ!」
・・・・・・・・・・。
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